「椛! 仕事が終わったら迎えに行くって言ったのに、なんで先に帰ってるんだよ!」
バンッと玄関のドアが開く音が響くと、蒼甫先輩の大声がダイニングへと近づいてくる。
あ、すっかり忘れてた……。
話の流れでそんなようなことを言っていたような気がするが、ちゃんと約束していたわけじゃない。
なんて言い訳、蒼甫先輩に通用するはずないか。
「ちょっと、考え事をしてまして」
ダイニングに姿を現した蒼甫先輩へと、ボソッと告げる。
「考え事って何? それって俺より大事なこと? ちゃんと説明しろよ」
怖い上司よろしく偉そうに(実際に上司だけど……)、ドカンとダイニングチェアに座る。人差し指でトントンとテーブルを叩くと、隣に座れと私を促した。
おっかない……。
目を合わせないように、蒼甫先輩の前に俯きがちに座る。はじめからのんびりと穏やかには程遠い状態じゃない……と笑いそうになるのを必死に堪えた。
「言い訳は聞かない。事実だけを言えよ」
蒼甫先輩は溜息をつくと腕を組み、私の出方を待っているように見える。
「怒らないで聞いてくれますか?」
「怒るか怒らないかは、話を聞かないとわからない」
「ですね」
相変わらずの反応に、私も小さく溜息をついた。


