極上御曹司のイジワルな溺愛

「蒼甫先輩に怪我がなくて、本当に良かったです」

素直な気持ちを口にしただけなのに、蒼甫先輩は何故か怒った表情を見せた。

「普通それは、男が女に言うセリフだ。女が傷ものになって、嫁に行けなくなったらどうするつもりだ?」

え? どうするも何も……。

「私、嫁に行けないんでしょうか?」

期待を込めた目で、蒼甫先輩を見つめる。

「あぁ、その、なんだ。まあ、嫁には行けるか、うん……」

いつも強気な蒼甫先輩にしては、歯切れの悪いこと。

先輩はきっと言葉の綾で言っただけだろうに、私も大概、意地の悪い女だ。

「冗談ですよ、冗談」
「はあ!? 冗談だと?」

蒼甫先輩の眉が、ぴくっと上がる。

え? あれ? 私何か、彼の機嫌を損ねる地雷踏んだ?

そろっと手を引っ込め掛け布団を掴むと、それを頭からすっぽりと被る。

また何か文句を言われるに違いないと構えていたのに、蒼甫先輩は何も言ってこない?

少しだけ布団を捲りそこから蒼甫先輩を窺うと、何かを我慢しているような姿が見えた。

「蒼甫、先輩?」

どこか痛いんだろうか、心配になって彼の名を呼ぶ。

「……ったく、どうしてお前は病室で、しかもなんで怪我して寝てんだよ! これじゃあ何もできない」
「ど、どういう意味ですか、それ?」

どうやら体に異常は無いみたいだけれど、先輩の言ってることがちんぷんかんぷんで、さっぱりわからない。嫁に行く話と、何か関係しているのだろうか。