極上御曹司のイジワルな溺愛

すぅっと小さく息を吸い込み、溜息のような息を吐く。

「左肩を刺されたんだ。まだ辛いだろう。喋らなくていいぞ」

蒼甫先輩は頬に触れている私の手を取り、両手で優しく包むこんだ。

手が震えてる?

意識がハッキリとしてきた目でよく見れば、手だけじゃない、体も小刻みに震えていた。

「蒼甫先輩?」

私の呼びかけに蒼甫先輩は顔を上げると、何故か怖い顔を私に向けた。

「この、どアホ!! どうして飛び出してきた! あの状況なら逃げるのが普通だろ!」

蒼甫先輩は興奮しているのか、怒りが収まらないみたいで。

「お前は何度、俺を突き飛ばせば気が済むんだ! いい加減にしないとマジで怒るぞ!」

なんて言いながら、すでに目一杯本気で怒っている。

「そんな大きな声で叫ばなくても。傷が痛むじゃないですか」

別に好きで突き飛ばしたわけじゃないのに……蒼甫先輩のバカ。

確かにあのときの行動は軽率だったかもしれないけれど、今ここで怒鳴り散らさなくてもいいのに……。

体の痛みだけじゃなく、心まで痛くなってしまう。

「頼むから、もう二度とあんな無茶な真似はしないでくれ……」
「え?」

蒼甫先輩は顔を伏せ、私の右手を痛いくらい握りしめる。

「包丁の刺さった場所が、あと五センチずれてたら危なかったって。もし椛がこの世からいなくなったら、俺は……俺は……」

大きな体を震わせ普段は絶対に泣かない蒼甫先輩が、苦しい感情に耐えかねて泣いているようにみえた。