極上御曹司のイジワルな溺愛

* * *

微かに耳に届くのは、誰かが話をしている声。

「命に別状はありません。意識も、もう少しで戻ると思います」
「わかりました。ありがとうございます」

そう男性が礼を言うと、ドアが閉まる音がした。

近くでは、ベッドサイドモニターがピッピッと規則正しい音を鳴らしている。

意識が戻りつつある中ゆっくり目を開けると、少しだけ開いている窓から入り込む風が、白いカーテンを揺らしているのが目に入ってきた。

あぁ……ここは病室で、私、どうやら生きてるみたい。

頭だけ少し反対側へと向けると、今度は誰かの姿が薄っすらと見える。

「……蒼甫先輩……」

体に力が入らないせいか、普段どおりの声が出せない。蒼甫先輩を呼ぶように、自由に動く右手をゆっくり伸ばす。

「椛!?」

先輩、何ていう顔をしているの? いつもの先輩らしくないんですけど。

近くに来た蒼甫先輩の顔は、強気な先輩に似つかわしくない今にも泣きそうな顔だ。

その頬に、手で触れる。

「どう、したんですか? 元気が、ない、ですね」

目が覚めたばかりだからか頭がまだ回らなくて、言葉がぶつぶつ切れてしまう。