副社長の後ろ姿を見送るとドッと疲れが出て、麻奈美の体にもたれ掛かる。

「あの人のどこに魅力があるのか、私には全然理解できない」

「そう? 素敵な人じゃない。上司としても最高だし、彼氏なら尚更よね」

「彼氏って、麻奈美にはいい人がいるじゃない」

そう言って脇腹を突付くと、麻奈美は照れたように笑った。

麻奈美の彼氏は、『雅苑』と契約している音響会社の誠くん。なんと四歳年下の男の子だから、初めて話を聞いたときは腰を抜かした。

年下で大丈夫? なんて心配もしたが、誠くんに会うとそれもすぐに解消。見た目こそ年相応だったけれど中身はしっかりとした男の子で、これなら大丈夫と太鼓判を押したのをよく覚えている。

「麻奈美はいいなぁ、幸せそうで」

「何よ、急に」

「どっかに白馬の王子、落っこちてないかしら」

私がこんな事を言うなんて、ひとり暮らしを始めるからか心細くなってるのかもしれない。

「案外近くに、いい男が落ちてるかもよ?」

「そんな都合よく、落ちてるわけないじゃない」

冗談だとわかっていても、周辺をキョロキョロ探してみる。

そんな都合よく男が落ちてたら、苦労しないんだけど……。

「アホらしい。そろそろ仕事に戻るわ」

引っ越しは金曜日と麻奈美に伝えると深呼吸をして、気持ちを切り替えてからスタッフルームへと戻った。