「椛、起きろ。いつまで寝てる気だ」
体をゆっさゆっさと揺さぶられ、薄っすら目を開ける。
「んん~、今何時?」
「八時を回ったところ。いくら同じ敷地内に職場があるったって、そろそろ起きたほうがいいんじゃないか?」
カーテンを開けられると眩しい日差しが差し込み、眩しさに掛け布団を引っ張り上げる。
「はぁ……椛」
呆れたような溜息に、椛と呼ぶ声。
そこで今自分が置かれている状況に気づき、慌てて飛び起きた。
「そ、蒼甫先輩! おはようございます。すみません、母に起こされたと思って、ついタメ口を……」
「母って、お前なぁ。さっさと起きて下に降りてこいよ」
ベッドの上に膝立ちで上がった蒼甫先輩は、私の頭の後ろに手を回すと、引き寄せ甘いキスを落とす。重なった唇からは、ほんのりコーヒーの香りがした。
ヤバい。幸せすぎる……。
寝起きの優しいキスの余韻に酔いしれながら、蒼甫先輩が出ていったドアをしばらく見つめていた。


