「ところで里中さん、薫さんはどうしてる?」
「え? 薫さんですか?」
そう言えば、今日は薫さんの顔を見てないかも……。
里桜さんに聞かれて、そのことに気づく。
「どうせどこかで、油を売ってたんだろ。今頃は家で、のんびりしてるんじゃないか」
「油を売っていたかどうかは知りませんが、きっと家にいるはずです。呼んできましょうか?」
里桜さんからの返事も聞かず歩きだすと、振り出した手を取られた。
「ううん、いいの。時間も時間だし、もう夕ご飯も済んでるんじゃないかしら」
そう言って力なく微笑む里桜さんを見て、普段の彼女らしくないと小首をかしげる。
里桜さんが薫さん相手に、気を使うなんて……。
悪い意味で言っているわけではない。
いつもの里桜さんならこんな時、「それなら私が呼びに行くわ」と言って誰の静止も聞かず、真っ先に走り出してしまう。そんな女性だ。
そして里桜さんと薫さんの仲は、そういうものなのだと言いたいだけ。


