「部屋、綺麗にしてるんですね」

当たり前のこと言ってみる。

「椛とは違うからな」

予想通りの返答で思わず笑ってしまい、怒る気力も起こらない。

蒼甫先輩は読んでいた雑誌をテーブルの上に置くと、手招きして私を呼んだ。それの応えるように蒼甫先輩に近づき、隣に腰を下ろす。

「これ見てみ。新作のウェディングドレスだってさ」

そう言って手渡された透明のファイルの中には、外人のモデルが着たウェディングドレスの写真が収まっている。

「わあ、すごく綺麗。もちろん里桜さんの作品ですよね?」

里桜さんとは、今アメリカで注目されているウェディングドレスのデザイナーの冨士原里桜。薫さんの友人で、その縁で日本では雅苑でしか里桜さんのウェディングドレスは着られない。

ここだけの話だが、里桜さんはバツイチ子持ち。桜ちゃんという、五歳の可愛い女の子のママ。

シングルマザー、しかもアメリカで働きながらの子育ては大変だと思うのに、時々こっちに帰ってきて顔を合わせても、疲れた顔ひとつ見せないバイタリティ溢れる女性で私の憧れの存在。