すると千夜さんに私達が帰ってきたことを聞いたらしい薫さんが、リビングから飛び出てきた。私は用心に越したことはないと、反射的に身構える。

「椛ちゃーん、ただいまー」

やっぱり来た!

アメリカ好きの薫さんは、学生の頃から留学や旅行でアメリカに行っていたと聞いている。成人になってからもそれは変わらずアメリカかぶれなのか、それともアクティブ過ぎる性格によるものなのか、いつも私を見つけると“ハグ”をしたがる。

いわゆるボディーコミュニケーションというやつなんだろうけれど、ハグにとどまらずキスまでしようとするから困りものだ。

でも今日は少し違った。

薫さんがあと三メートルと近づいたその時、私の前に蒼甫先輩が立ち塞がる。

「兄貴、ここは日本だ。挨拶はただいまだけでいい」

蒼甫先輩の背中が、やけに大きく感じる。

「なんだよ蒼甫、ナイト気どりか? 椛ちゃんは、蒼甫のものじゃないだろう」

「別に、俺のものだからって言ってるわけじゃない」

「だったらいいじゃない。ねえ、椛ちゃん」

「は、はあ……」

ねえ、椛ちゃんと言われても……。