俊輔は自転車に乗りながら、行きに来た道程とは違う道で帰っていた。






 住宅地を少し進んだ所に外には可愛らしい花が沢山置かれた建物の前へと俊輔は自転車を止めた。



 花のいい匂いを通り過ぎれば手押しドアを押す。


カランラン




 ドアに付けられたベルが、俊輔が来店したのだとを知らせるのだった。


 建物の中は外より一層花の香りがする。




「はーい。あら俊ちゃん良く来たわね、いらっしゃい」



 建物の奥から四十代位のおばさんが笑顔で現れたと思ったら俊輔の顔を見て「ちょっと待っててね」と再度奥へと入っていったのだった。






 俊輔はその間、ぼんやりと建物内を眺めるのだったが不意に窓から見えた光景に目がいく。













「あの猫……。朝に見たやつなのか?」


 俊輔が見たものは今朝見かけたぶち猫が塀に登ってじっとこちらを見続けていたのだった。その瞳は俺を値踏みするようにじっとりと感じた。









ニャー……








 猫の鳴き声にどぎまぎした。

 それはまるで俺に何かを伝えようとしているようだった。



 気になった俺は徐に店から出て猫へと近寄るのだった。


 猫は不思議なことに逃げることなく近寄る俊輔を塀の上からじっと見ていた。




 そして目線が合わさると俊輔は猫をまじまじと眺めたのだった。



「やっぱりお前、似てるな」



 猫の耳がピクリと動きそして尻尾がゆらりと揺れた。



「っと、いけねえいけねえ店出ちまった」


 俊輔は品を受け取らずに店を出てきたことに気が付けば踵を返し店へと戻っていく。




「んじゃあな、猫」






 去り際にそう残せば店の中へと入っていったのだった。


 俊輔が居なくなった後も猫はゆっくり尻尾を揺らすのだった。