姉ちゃんが家を後にし、俺は朝食を食べ終えれば皿を洗う。次はスウェットを脱ぎ制服に着替え始めた。
準備を終えると家の鍵を締める。不意に俺は手元の鍵を眺める。昔からずっと付け続けている猫のキーホルダーが気になった。
昔母ちゃんがどこかで買ってきたキーホルダー。今も付け続けているのはやはり二人を忘れないためだろう。何だかこれを見ると二人が俺達を見守ってくれているように感じる。
俺はポケットに鍵を突っ込めば携帯で時間を確認する。
「やっば、また遅刻になる」
時計は朝の八時十分を示し、このままでは遅刻してしまうことに気づいた俺は学校までダッシュで自転車のペダルをこいだ。
あれから十年、田んぼや畑だらけだったこの辺りも少しづつだが家が建ってきている。俺は学校まで変わりつつある日常の道を眺めながら進む。
ーーーーー俊輔……
反射的に俺は立ち止まってしまった。それもその筈、それは母ちゃんの声にそっくりだったからだ。
俺はありもしないことに若干期待するように周りを見回した。
だが周りはいつも見た光景だけで声の主なんて見当たらない。否、見当たるわけがないのだ。
「ハハ、何を期待してんだよ俺は」
自嘲するように笑う俊輔は、また進み始めようとしたのだが目の前に一匹の猫が現れた。
現れたのはそこら辺によくいるぶち猫だった。だが俊輔は違和感を感じた。その猫は普通とは違う独特な雰囲気を纏っているように見えた。
ぶち猫は俊輔の様子を伺うように一定の距離で見つめていた。
その姿に俊輔はポツリと呟いたのだった。
「お前、キーホルダーに似てんな」
俊輔の何となく呟いた言葉に、まるで猫は言葉を理解しているように尻尾を揺らしたのだった。
その事に気づかなかった俊輔は時間が無いことを思い出せば直ぐ様その場を離れ学校へと向かったのだった。
その場にいる猫は遠ざかっていく俊輔の姿をずっと眺めていたのを彼は知らない

