あれは私と弟の陽炎





「起きて結子ちゃん」


 肩を揺さぶられ目を覚ませばどうやら寝ていたようだ。

 澤先生が私を起こせば、ニコリと微笑んだ。そして次は泣き疲れて寝ている俊を起こし始めた。


「……澤先生」



 俊は目を擦りながら起き上がれば、ゆっくりと私と澤先生を確認した。


 今は何時かと時間を確認すれば時計の針は夜の九時を差していた。












「さ、時間も時間だから。一旦此処を離れましょ」

「お家……」


 結子がボソリと呟いたのを澤は聞き逃さなかった。




「ええ、帰りましょ。皆で、帰りましょう」

「皆って澤先生も?」

 横から俊が入ってきて、私と澤先生をじっと見た。




 じっと見つめる双眼に澤先生はくしゃりとした顔で微笑んだ。




「ええ、三人で帰ろう」












 これからは先生が二人を守っていくからね。















 その言葉は衝撃的だった。だけど何よりも嬉しくて私達二人は澤先生に抱きついたのだった。


















 あれから十年後…。




「こら俊!いつまで寝てんのよ。さっさと学校に行く!」



「んんーー、」



「結子ー、俊起きたー?」

「何とか!」


 玄関から聞こえてきた声は二人の育ての親である澤だった。





「それじゃあ仕事にいってくるね。鍵お願いね〜」


 さっそうと出ていく澤に二人はいってらっしゃいと言葉を残した。



 あれから十年後、澤は学校の先生を続け結子は大学二年生となり俊輔は高校三年生になった。


 俊はスウェット姿で欠伸をしながら机の前に座れば目の前にある朝食に手を出す。

 その横に結子も座ればマグカップにある紅茶を飲んだ。


「今日は早く帰ってきなさいよ」

「ん、大丈夫。顧問にもちゃんと伝えておいたし」

「そう、多分俊の方が早く帰ると思うから花を買っといてくれるかな」

「分かった」





 それじゃあこれ、と結子は俊輔に色が剥がれ落ちた古いキーホルダーの付いた鍵を差し出した。俊が受けとればマグカップを洗面所にもっていく。



「それじゃああたし行くね」

マグカップを洗い淵に置けば肩に鞄をかけ「いってきます」と言った。

「おー、いってらっしゃい」


 いくつになってものんびりしている俊輔は左手を上げカップに口をつけた。