あの夏


あの日はとても暑い日だった。









「こらー結子(ゆうこ)俊輔(しゅんすけ)学校のプールに遅れるわよ!」


 母親の美佐(みさ)が指す時計には十三時二十三分を表示していた。


「「はーい!」」

 隣の部屋から女の子と男の子がバタバタと走り美佐の前を横切り玄関で靴をはいた。




「ったくいくら近いからってこんな時間までいるんじゃないの」

 若干怒り気味の美佐の隣に呑気に

「おーいってこいよ」

 とこれから仕事に行く父の健一(けんいち)が顔を出す。


「お父さん行ってきます!」

結子は靴を履き元気よく返事をすれば弟の俊輔も続いて

「行ってきまーす!」

「あ、ちょと待ちなさい」


二人が出てこうとすれば美佐が結子の手に握らせる。


「お母さんはお父さんを仕事場まで送っていくから、もしもの時のため鍵は持ってなさいよ」




 長女である結子は「分かった」と返事をすれば今度こそ行ってきますと言い、二人は家を後にしたのだった





















 これが私と弟が父と母に交じわした最後の言葉だった。