まず最初は、職員室に向かい先生方に事情を説明すべきだろうか。
そう思ったけれど、お兄ちゃんが来れなくなったことを伝えればいいだけだし、この時間ならきっと部活をやっている頃だろうし部室棟へ向かい、顧問の先生に会ったほうが楽かもしれない。

私は校門のすぐ近くにあった部室棟に行き、扉の横にあるプレートを確認しながら足を進めた。

そして、五つ目のプレートについに「自転車部」を見つけたのだった。

私は軽く息を吐いて、二回扉をノックした。

「すみません、宮野親成(ちかなり)の妹なのですが、お時間よろしいでしょうか」

しん、と沈黙だけが帰ってきた。

まさかもう部活が始まっちゃったのだろうか。
でもここに来るまでに何十人もの部室棟に向かう生徒や校門へと向かう生徒に出会っている。

例え部活が始まっていたとしても、一人くらい部室にいてもいいと思うのだが。

やはりここは横着せずに職員室に向かうのが正解だったか。
私はまた一つ、息を小さく吐くと、自転車部の部室の前から歩き出した。

無駄な手間を取ってしまったなあ、なんて考えていたら、前から歩いて来た男の子と目が合った。

なんて言うか、いかにも悪そうな子だ。
目付きが鋭くて怖いったらありゃしない。

さっさと通り過ぎてしまおう、私は顔を俯かせると、そそくさと足のスピードを早めた。

隣に並ぶまであと三メートル、二メートル、一メートル、のところで。

「なあ、あんた」

はっと顔を上げると、真ん前にその目付きの悪い男の子が立っていた。
また、目が合った。

制服を着ているから生徒なんだろうが、年下に見えない程の威圧感である。
背もそこまで高いわけではないのに、まるで蛇に睨まれた蛙になった気分。