別に家の親がすごくケチで、電車代なんて払わない、遠くに行くならチャリにしなさい――なんて言ったわけではない。
事実、私は高校も大学も電車通学である。

ただ、お兄ちゃんが自転車乗りだったのだ。

情けない話だが、正直私はまったく自転車というものを知らない。
お兄ちゃんはどうやら高校での活躍が注目され、大学からの推薦もきて、今はプロとして活躍している、らしい。

だが先述したように私はまったく自転車というものを知らないのだ。
お兄ちゃんはプロのロードレーサーとか何とか言うらしいが、私にはそれがどれほど凄くて、誇るべき事なのか解らない。

今日、お兄ちゃんがOBとして向かう予定だった部活も自転車部などというものなんだとか。

正直な心の内を言わせてもらうと、自転車を使ったスポーツと言うのはかなりマイナーだと思うし、今時の男の子はサッカーやバスケばかりやるものだと思っていた。
それがこの学校では、一部活として成立してるのだから感心する。

自転車を使ったスポーツと言うのも、私が疎いだけで有名なものなのかもしれない。

「次は晴野高校前ー、晴野高校前ー」

まあ、極度の運動音痴である私には運動というものに全力で打ち込む人の心理が理解し難いのだが。

私はそう思いながら、目的の晴野高校前に止まるよう運転手に声をかけた。

程無くして晴野高校前にバスは止まり、私は運転手にお金を払い無事に学校に辿り着いたのだった。
山の中だからだろうか、先程の駅で感じた寒さより少し強く感じる。

私は服の袖を軽く引っ張り、学校へと足を踏み出した。