「私は、あなたの心の森の奥で、ずっと抑えつけられていた、もう一つの心」
彼女の手が、澤山の胸の中に入っていく。

「もう一つの、心?」
胸にのせた両手で、胸の中を感じようとする澤山。

「拓也さん達は?」
哀しい感覚になる澤山。

「あの人達は、あなたの心の記憶に残っている人や、あなたの心が創った人達」
耳を澤山の胸に当てる。

「僕の心の記憶に残っている人や、心が創った人?」
彼女を両手で包む澤山。

「そう。私もあの人達も、あなたの深い心の森に住む、森の人」
彼女が澤山の胸の中に入っていく。

「あなたは、あなたの心の内(なか)で自分と戦っていたの」
「現実を受け入れられず、要らない者として排除しようとしていた、あなたの心と」
彼女が胸の中に消えた。

「思い出しなさい。あなたがどうしてここに来ることになったのか」
「そして、その目で現実を見つめ、その心に刻み、受け入れるの」
澤山の心の中で、彼女が言う。


「森の人達と、共に生きるのよ」



そして、優しい甘い匂いが包む、その不思議な空間の中で、澤山は記憶を辿っていった―