森の人

目を開ける澤山。
だけど、意識は虚ろ。
今いる世界も、夢なのかどうか区別出来ない。

「あ、あなたは」
だけど唯一、目の前にいる人は判別出来たようだ。

「あなたはまだ、心を抑えているようね」
髪を後ろで結っている、中年の女性。

「僕はどうなってしまったんですか?」
不思議な空間の中で、虚ろな意識で思い返そうとする澤山。

「勇気を振り絞って、全てを思い出しなさい」
と言われても、その言葉の意味が分からない。

「この森は何なんですか?」
その問いに優しく微笑む、その女性。

「この森は、あなたの心の内(なか)」
そして、仰向けに寝ている澤山の胸に、そっと手を当てた。

「僕の心のなか?」
そう言って、自分の両手を、胸にのせようとする澤山。

「あなたは一体…?」
彼女の手は、確かに澤山の胸に在るはずなのに、その手に触れられない。