森の人

それから5分くらい歩いただろうか。

「さぁ、こちらです」

そう言って彼女が案内した先には、10階建てのビル。

「あっ、このビルは…」

思わず声に出し、屋上の方まで見上げる澤山。

「心当たりでも?」

「え、ええ…。まぁ…」

彼女は再び意味深な笑みを澤山に向けると、ビルの中に入って行った。

「…」

まるでその笑みが催眠術であるかのように、澤山は急に一点を見つめ、吸い込まれるようにビルの中に入って行く。

瞬間、優しい甘い匂いの風が澤山を包んだ。

「…、この匂いは…」

次第に澤山の意識は遠のいていく…。

もうろうとする意識の中、あの女性の声がする。


『あなたはもう、心を抑える必要はないのです。
あなたの欲望や感情に素直に従った時、道は拓かれるでしょう。
さぁ、心のままに…』―