森の人

「あのー」

いつしか掴んでいた腕を離し、澤山の前を歩いている彼女に、澤山は話しかけた。

「一体何の勧誘なんですか?」

その言葉に、彼女はピタッと立ち止まった。
そして、澤山の方を向いたかと思うと、スッと近付き、

「勧誘ではありません」

と言って澤山の胸に手の平を当てた。

「あなたの心が求めているのです」

そう言って持っていたチラシを、澤山に渡した。

「…?モリのヒト会…?」

その紙には、


『森の人会
 あなたの心のままに…』


とだけ書かれていた。

「どういうことですか?」

視線を、チラシから彼女の目にやり、澤山は言った。

「…」

彼女は何も言わず、意味深な笑みを、澤山のキョトンとした目に返すと振り返り、再び歩き始めた。

「待って下さい」

彼女の後を追い掛ける澤山。

その隙に逃げる。

という発想は、彼にはないようだ。