森の人

その女性は、ごくごく普通の中年女性だ。

グレーのスーツに踵の低いヒールを履き、髪は後ろで結っている。
手にはチラシらしき紙の束を持っているが、見知らぬ者に声をかけてくる行為以外は、怪しいオーラは醸し出していない。

そんな中年女性が、28歳の男性の腕を掴み歩いていく。
そんな様を、街行く人々はどんな風に見ているのだろう。

家出息子を連れ戻しにきた母親とマザコン男?

いやいや、澤山の身なりは、実年齢より老けて見えるはず。

だとしたら、恐妻家の妻と尻にひかれる夫?

それとも、やはり、ただの勧誘員と間抜けなカモ。


以外と無関心なのかもしれない。

その証拠に、そんな二人を見ても、誰ひとりとして振り向かない。

それは敢えて見ないようにしているのか、それともそんな二人も、街の一部として溶け込んでしまっているのか。