森の人

当日

大型連休でごった返す駅の改札口。

「茂君、こっち」

人混みの中から、茜が手を振った。

「茜さん!拓也君も」

三人は目的地までの切符を買うと、ホームに上がった。

「ちょうど電車来たよ」

澤山の言う通り、三人がホームに上がると、列車の接近を知らせるメロディーが鳴っていた。

「…、に、しても…」

対面式のこの駅のホーム。

平日の朝のラッシュ時並みに混雑する、向かいのホーム。
それに比べて澤山達がいるホームは、最終列車が行った後のように、ガランとしていた。

「このホームで…いいよね…?」

「ああ…、多分」

駅一覧表で、目的の駅の位置を確認する茜と拓也。

「大丈夫。こっちで合ってるよ」
「それより、一番前の車両に行こうよ」

二人の不安をよそに、到着した列車の先頭車両に向かう澤山。

普段とは違う、無邪気にはしゃぎ、子供のように目を輝かせる澤山が、そこにいた。

「わざわざ一番前まで行かなくても…」
「茂君って、もしかして、鉄道マニア?」

「うん。将来の夢は、電車の運転士」

満面の笑みで答える澤山。

「へぇ〜。そうだったんだ」
「いいじゃん。前行こうよ」

興味津々に、澤山の後を追う拓也。

「もう〜」

渋りながらもついていく茜。


その後二人は、最寄り駅までの30分間、延々と澤山の鉄道講座を聞かされた。