森の人

「どうして辞めたの?」

突然の事に、心配になる澤山。

「深い理由はないよ」
「面白くなかったからさ」

遠くを見つめたまま答える拓也。

「他のみんなみたいに、夢中になれなかったんだ」
「ただ何となく入っただけだしね」

その表情は、どこか哀し気だった。

「夢中に、なれるもの…」

そう呟き、拓也の哀し気な横顔を見つめる澤山。

「ごめん、深刻な話をして」
「でも、不思議だな。君になら、何でも話せそうな気がする」

急に、爽やかな笑顔になり、澤山の顔を見る拓也。

その拓也と目が合い、咄嗟に目を逸らした澤山は、

「僕で良ければ、何でも話してよ」

と、自分の胸を叩いて言った。

「頼りなさそうだけど…」

「そんな〜」

濁りのない笑い声が響く中庭。
今日も相変わらず、優しい甘い匂いに包まれていた。