「終わったの?」


 突然、後ろから声をかけられて、瑠哀はくるりと振り返った。


「もう済んだの、サーヤ?」

「ああ。待たせて済まなかった」

「それは、いいけど―――」


 後ろから現れた新たな青年はそこで言葉を切り、瑠哀に視線を向けた。


 見事なほどのプラチナブロンドに、彫刻のような端整な顔立ち。

 真っ直ぐに伸びた鼻、大き過ぎもなく小さ過ぎでもない唇は、喜怒を表すような仕草さえ感じられない。


 そして、目の覚めるようなエメラルドの瞳。

 アルマーニのスーツを着て、パリ・コレからちょうど抜け出してきたモデルのような感じさえする容姿で、その青年は静かに立っていた。



 行き交う人々が、その青年を振り返り見ているほど、注目を浴びている。


「彼女は?」

「なんともないらしいよ。観光でここに来ているんだって」


 そう、と頷き、金髪の青年は瑠哀の前に立って、瑠哀の手を軽く取った。

 そして、その唇を近づけ瞳を閉じながら、そっと瑠哀の手の甲にキスをして行く。



「ピエール・フランソワ・デ・フォンテーヌです。どうぞよろしく」


 瑠哀はその青年が甲にキスをし、その手を離し顔を上げる間、なにも言わずその青年を見ていた。


 透き通るほどにきれいなエメラルドの瞳が、何の感情も表してなく、冷たささえ感じる無表情の色を浮かべている。


「ルイ・ミサキです。初めまして」


 その青年は軽く眉を上げるようにした。


「フランス語が話せる?」

「ごく、基礎的なことだけ」

「それはいい。サーヤのことはもう知っている?」

「いいえ」

「紹介が、まだか。

僕が先に終えてしまった、というわけだな。

彼は、サクヤ・カヅキ。

僕の友人で、パリ大学の学生だ。

サクヤと呼びづらいから、サーヤと呼んでいる。

―――これで、正しいかな?」


 ピエールは横にいる青年をチラリと見る。


 サーヤと呼ばれた青年は小さく苦笑いをし、


「それ以上、付け加えることはないだろうね」


 ピエールは浅く笑い、瑠哀に向き直る。