『私には、なんとも言えないわ。

私も……、誰かが侵入したかもしれない、と思っただけ』

『君は狙われているの?』

『さあ……。そう、とも、違う、とも言えないわ』


 瑠哀は組んだ腕の左手を上げ、そのまま額に押し当てるようにした。

 狙われているのは確かだが、その目的は違っている。



『荷物をパックして』


 瑠哀は不審そうに顔を上げた。


『ここを出る支度をして』


 眉をひそめた瑠哀に、朔也は繰り返す。


『ここを出るんだ。

あの男達が君の居場所を知っていて、部屋にまで忍び込んできた。

ここは安全じゃない。

君のような女の子がどうにかできるとも、思わない。

警察だって、一日中このモーテルを監視することなどできないだろう。

だから、ここを出るんだ』

『出て、どこに行くの?』

『俺の家に、部屋が余っている』

『それは、とても親切なお誘いだけど、あなたの所には行けないわ』

『なぜ?俺が信用できない?』

『そうじゃないわ。

あなたこそ、簡単に私を信用すべきじゃない。

私が狙われて危険かもしれないと言うのなら、あなたも危険にさらされる。

あなたの家も安全じゃなくなるわ。

トラブルに巻き込まれると判っていて、安々、私を家につれて行くのは、どうかと思うけど?

私は、悪い女かもしれないわよ』