瑠哀 ~フランスにて~

『違うよ。傷は、全然、痛まないんだ。

俺は、大丈夫だよ、ルイ』

『でも…――』


『違うんだ。そんなことで腹が立っていたんじゃないんだ。

ただ――、ムカつくな、と思ってね』


『どうして――、あなたがムカつくの?

―――本当は、傷が痛いんじゃない?』


『違うよ、ルイ。

これはかすり傷だから、そんな風に心配しないで。

本当に、俺は何でもないから』




 だったら何だろう…?――と、瑠哀のその顔がまた心配し出す。

 そんな瑠哀を見て朔也は優しく微笑み、瑠哀を抱き寄せている腕を少し上げ、

そっと瑠哀の髪を梳いて行く。



『違うんだ。

そんなことで、少し腹を立てていたんじゃないんだ。

だから、心配しないで、ルイ』

『…どうしたの?

――何か、あったの、サクヤ?』

『何でもないんだよ。

ただ、さっきからムカつくな、と思って?』

『どうして?』



 まだ心配そうな表情をやめない瑠哀に、朔也はにこっと笑った。



『ただね、親切なのはいいけど、

君がこの船に乗船したのは間違っていたな、と思って』