瑠哀 ~フランスにて~

「ありがとうございます。わざわざ、すみません」


 瑠哀が一応微笑みを浮べ、丁寧に礼を言う。

 そして、服を受け取りに立ち上がりかけた。

 ―――が、グイッと、力強く、腰に回された腕に引き寄せられ、

瑠哀を見ている青年の前で、瑠哀は立ちあがることができなくなってしまった。



 チラッと、横に視線を向けると、

特別、入り口の青年に興味を示している様子もなく

――その青年を見るでもなく、自分の前で瑠哀を座らせてしっかりと抱きしめている朔也は、

その顔を瑠哀の肩に寄せているだけだった。



 何かを言うでもなし、それを見ている瑠哀はちょっと困ったように、



「―――あの…、そこに置いておいてください。

ご好意に甘えて、後で着替えさせてもらいますので…」



 青年はまだ瑠哀を黙って見ていたが、



「わかりました。では、失礼します」



 また礼儀正しく挨拶をし、持って着た着替えを傍の椅子に置いて、

静かにその部屋から出て行った。



 パタン、とドアが閉められ、またシーンと静かな部屋の中に残された瑠哀は、

チラッと、朔也を見やる。