瑠哀 ~フランスにて~

「そうですか。―――ですが、一応、診てみましょう」


 そう言って、首に巻かれている包帯も静かに外し出す医者は、

クルクルと包帯を巻きとって、そこから出て来た傷口をじっくり観察するように、

瑠哀の顔を下から覗き込む。

 指で触れ確かめたりしながら、また消毒液を取り上げてそこをきれいに消毒し、

新しい包帯で傷をカバーするようにした。



「この腕の傷は、何ですか?」

「古い傷です」



 これまた、古い傷である。

 今度は腕を取ってその傷を見ながら、



「治りかけていますね」

との、短い診断が出される。



 そして、またなぜか瑠哀をサッと見下ろす医者が、

さっきまで縛られていた手首の確認をし出す。

 そこでもまた目に付いた傷――ではないが、

コンクリートにぶつけた時の衝撃でできたあざの跡と、

そのへこんだ黒い部分も瑠哀に確認していた。



 階段の傷は大分良くなってきているようだったが、

瑠哀が無理矢理連れ去られた時に、乱暴に投げ飛ばされたのだろうか。

 その時のかすり傷やら、また新たなあざやらで、


「これは何ですか?」

と質問する医者に、

「古い傷です」

と答える瑠哀だった。