瑠哀 ~フランスにて~

 だが、瑠哀は朔也が手当てを受けている間中、座りもせずに後ろに立ち、

真剣なまでの面持ちで朔也の傷口をじっと見詰めていたのだった。



「ルイ、大丈夫だよ」



 何度もそれを優しく言い聞かせる朔也。

 だが、瑠哀は朔也の手当てが終わるその時まで口も動かさず、

ただ恐いほど真剣にその場に立っていた。



「―――目眩いや吐き気はありませんか?」

「大、丈夫、です」



 医者が半ば立ち上がった状態で、

瑠哀の髪を避けながらそっと額の傷口の手当てをし終える。



「小さくですが切れてしまったようなので、陸地に上がったら、

縫った方がいいかもしれませんね。

その方が、血も止まりやすいでしょうから」


「はい」



 朔也はそれを聞きながら、なんとも痛ましそうに顔を歪めている。

 だが、瑠哀はただ医者が聞くまま、話すまま、その相槌を打っていただけだった。



「他にはありませんか?」

「ありません」

「その――首の傷は、どうしましたか?」

「これは、古い傷です。今日、怪我したのではありません」