瑠哀 ~フランスにて~

 救護室というか医務室のような小さな部屋に案内された瑠哀と朔也は、

指揮官のマンセンの付き添いと、

指揮官に呼ばれていたのだろうか医薬班の医者とまではいかないが、

それに近い者がその部屋に集まっていた。



 瑠哀の手当てを先に、と言う朔也に、瑠哀は首を振り、

朔也の手当てが終わるまで自分のはしなくて良い、と言い張っていた。



 何度も何度も、


「俺は大丈夫だよ。これは、かすり傷だから」


と繰り返し言い聞かせる朔也だったが、

瑠哀は頑なに首を振り、絶対に動く様子さえも見せなかった。



 それで仕方なく、困ったように溜め息をつきながらも、

朔也が先に応急処置を受けることとなった。

 ずぶ濡れのシャツを脱ぎ、医者の言われるまま椅子に座り、

背中に受けた傷の手当てを受けていた。



 瑠哀がボートから振り落とされたその時、朔也は後先など考えもせずに、

あのまま海に飛び込んでいたのだ。

 瑠哀を救けるが為に飛び込んだ朔也が逃げ去る――とあの場で判断したのかどうかは定かではないが、

それでリチャードが撃ち放った銃弾が、

海に飛び込んだ朔也の背中をかすっていたのだった。



 何度も朔也が繰り返す通り、銃弾が貫通したのでもなく、

ただ、背中を何本かかすっただけで、そこでこすれた傷だけが残っているのだ。

 血が流れていようが、水で薄められたから、

一見ひどく出血しているように見えるが、

実際は、かすり傷だと朔也は思っている。