瑠哀 ~フランスにて~

 朔也がどこまでも優しくそれを瑠哀に言い聞かせていた。

 それを横で聞いているであろう瑠哀だったが、

ぎゅっと、辛そうに目をつむって唇を結びながらうつむいていた。



 ツーッ―――と、うつむいているその頬に、涙の一筋がくっきりと浮かび上がる。



「――彼は、大丈夫でしょう」



 マンセンが咄嗟に出した言葉に、瑠哀が顔を上げる。

 そして、食い入るように見詰め返す瑠哀を見やりながら、マンセンはまた繰り返していた。



「彼は、大丈夫だと思われます。

傷は、それほど深くありません。

応急処置ですが、それでも止血はできます。

彼は、大丈夫だと思いますが―――」



 なぜ、マンセンまでもそんなことを言い出すのか判らなかったが、

ただ、自分を食い入るように見詰めている目の前の瑠哀が、

あまりに頼りなげに儚げに揺れ、そして、今にもその哀しそうな瞳が壊れてしまいそうな、

そんな錯覚が浮かび上がり、瑠哀をじっと見返したまま、

その言葉を咄嗟に出していたのだった。



「ルイ。聞いた通りだよ。

手当てをすれば何ともないものなんだ。

それに、君の方が手当てを必要としている。

―――さあ、救護室に行こう?

手当てをすれば、大丈夫だよ」



 それを優しく言い聞かせる朔也に、瑠哀は指揮官から視線を外し、

朔也をちょっと見上げていた。そして、コクッと、小さく頷いた。



「ルイ、大丈夫だよ。そんなに心配しないで」




 やっと、聞き入れてくれた瑠哀の肩を優しく抱き、朔也は瑠哀を促しながら、動き出した。