暗くなり始めていたが、辺りはまだ薄暗さが残り見えないほどでもない。

 今夜は月に雲がかかっているが、その合間には透き通る夜空に星々が散らばっていた。


 広大な庭やそこに飾られている大きな噴水を挟んで、向こうの方に黒っぽい影が見えた。

 不恰好な塊――人影が、走り去って行く。


「待ちなさいっ―――!」


 ダッと全速力で瑠哀が横庭を駆け抜けて行った。


「待ちなさい―――っ!」


 追いつけないことはないはずだ。

 不恰好に見えるのは、走り去っているその腕の隙間から見える小さな足が、

走る度に揺れている。何度も、その後ろ姿からでも腕にいるであろう小さなユージンを抱えなおしているのが見えた。


 それが、まさにその理由なのだ。


 はっ、はっ、と瑠哀の息がすぐに上がってきた。

 だが、足の速度を落とすことはせず、その後を追う。

 真っ直ぐ、この庭を突き抜けるのだろうか。それとも、どこかに回り道が―――


「――サクヤっ!?」


 バッと、瑠哀が追いかけていた人影の前に、横から回って来た朔也が前に回り込んだ。


 それを予想していなかったのか、逃げ去っていた人影が、思いっきりそこで足を止めた。


「ユージンを返して!」


 瑠哀が追いついた。


「ユージンを返してもらおうか」