『なんてこと…―――』


 もう完全に手遅れだった。

 ずっと守っていたのに、絶対に守らなければならなかったのに、

それなのに、今ここに小さなユージンの姿がない。


 あの狂った男達に連れ去られたら、決して無事でいられないであろうことは、判り切っている…。


 完全に手遅れだった。絶望して、絶望し切れるものなのではない……。


『――?』


 パッと、瑠哀が壁側に顔を向けた。


 一瞬だったが、なにか頬をかする風――隙間風――らしきものを感じたのだ。


 壁側――正確には天井から床まで届く長いカーテンの先を、目を凝らしたように見据えていた。


 何か変化があるようには見えない。


 そして、ふわっ、とほんの微かにそのカーテンの裾が揺れた。


『サクヤっ!』


 バッと、瑠哀は駆け出していた。


 カーテンを勢い良く開けた先には、縦長のガラスがはめ込まれたドアが隠れていたのだ。

 しっかりと閉められてはいないで、ほんの少しだけドアとはめ込みの間に隙間ができていたのだ。



 そこを抜け出して、瑠哀が外に駆け出して行く。