ピエールも驚いて、椅子から飛び降りてきた。


「………なんでも、ない、の。

急に…眠ったから、体がそれに反応でき…なくて――」


 朔也の腕を押し返して、それを言ったのだが、朔也は瑠哀を離そうとしない。


「ルイ、もう少し休むんだ。

顔色が真っ青だよ」


 ピエールが瑠哀の顔に手を伸ばしながら、瑠哀を覗き込んだ。


「…大丈…夫、よ。

まだ…起きていることに、慣れていない、だけ…なの。

―――シャワー、浴びれば、おさまるわ」


 瑠哀は一度堅く目をつぶって、ギュッと体中に意思の力を送り込む。

 体の中で、蓋を開けて溢れ出す疲労を、無理矢理、ねじ込めた。


「もう、大丈夫よ。

ごめんなさい、心配かけて」


 瑠哀はいつも通りの微笑みを見せ、朔也の腕を強く押し返した。


「顔洗うのじゃなくて、シャワー浴びてくるわ」


と言って、瑠哀は少し困ったように、朔也にしっかりと掴まれている腕に視線を落とした。


「シャワーは、昼に浴びただろう?

二度も入る必要はない」


 瑠哀はチロリと目線だけを上げる。

 朔也がひどく真面目な顔をして、瑠哀を見下ろしていた。


「休むんだ、ルイ」


 瑠哀は首を振る。