「どうしたの?私が欲しいんじゃなかったの?

彼女で満足などできたのかしら。

私はここにいるのよ。

―――私はここよ、ケイン」


 妖しいほどの嬌笑を見せて、その柔らかな唇が呼んでいる。こっちに来い、とその瞳が誘っている。


 ケインの瞳が揺れた。


「私は、ここよ」


 一歩前に出た瑠哀の頭をケインがナイフの持った腕で捕まえ、そのまま、ガッと瑠哀の口を塞ぎ込んだ。


「――――ウゥッッ――ッ!!」


 そのもがき声と同時に、瑠哀の目の前でケインが横に吹っ飛ばされた。


 一瞬、瑠哀には何が起こったのか判らなかった。


 だが、吹っ飛ばされたケインの目の焦点も合わず、口を開けたままそこで伸びている。


「ルイ、タオルだ」


 その瑠哀の横で静かな声がし、顔だけを回すと、朔也が横を向いてバスタオルだけを瑠哀に差し出していた。


 瑠哀はそれを受け取って、体に巻き直す。


「あなたがやったの?腕も立つのね」


 瑠哀の声音は淡々としていた。