艶のある長い黒髪をハーフアップにした蘭は、お世辞抜きに愛らしい顔立ちをしている。


裕福な家庭の子どもが集うこの学校の中でも、断トツでお嬢様と呼ぶに相応しい雰囲気のある子だと思う。



「雪、降りそうだね」

窓際を歩く彼女の澄んだ瞳は、今にも泣きそうな空を真っ直ぐに捉えていた。


そうぼんやりしていたところへ前方から慌てた様子で走る人が彼女に接近した。


「蘭!危ない!」

「ごめんね、ありがと」

「もうー」

咄嗟に自分の方へ彼女の腕を引いたから難を逃れたものの、こんなことは日常茶飯事。


「ごめん!大丈夫だった?」


「危ないから廊下は走らないで」

苦笑した彼女には呆れつつも、前方不注意の男子をひと睨みするのは忘れない。