「…初めて」
俺が前の街を指さして以来
ほんの少しだけ固くなった空気を
加藤がゆっくりと溶かすように話し出した。
「初めて会ったとき、みたいですね」
独り言みたいに呟かれた言葉が、
あまりに自分の考えと同じで思わず笑ってしまう。
「…なんで笑ったんですか」
「俺もおんなじこと思ってたから」
笑う俺に、
加藤もやっと笑ってくれた。
良かった。
加藤が笑ってくれて。
ほら、
こんなにもただ一つのことで俺は幸せになる。
良いんだよ。
加藤が幸せなら。
俺にとっての幸せは、
加藤が幸せなことで。
だから。
「あ、会長」
「ん?…あ」
キラキラと輝く加藤の目線を追って窓の外を見れば
建物の間に見え隠れする海が。
「綺麗」


