「あ、はい。
じゃあ、あの…電車です。

で、降りたら目の前なんで…。」

「あ、うそ。
この駅じゃないんだ。

すいません、ありがとうございました。」


やっぱり綺麗に頭を下げて
改札へ向かう後姿。


それがやけにむなしくなって。




「あの!」


俺は、
必死になって声をかけていた。





「はい?」


茶色い、長い髪がふわりと揺れて、
クルリとこちらを向いた大きな目。


「そっち方向なんで、家。
よかったら、一緒に…」


なぁに言ってんだ、俺。
家、反対方向だろ。


「え?いいんですか?」


この時ばかりは
必死の演技のおかげか彼女はまんまとこっちの言葉を信じ込んでくれた。