あ、と口が動き、
道路を挟んだ向こうにいる彼女がこちらに来ようとする。
「あ!待って!くるな!」
バス専用道路だけど、なかなか危ない道だから。
「俺が行くから!」
だから加藤、そこで待っててよ。
少しずつ、少しずつ
加藤への道をゆっくり歩く。
忘れないように。
一瞬ごとに変わる君の表情を一つも見逃さないように。
「会長!」
あ、また、加藤泣きそうになってる。
俺はダメだな。
加藤のこと、泣かせてばっかで。
「会長!」
大きなバスが通り過ぎる。
一瞬遮られた二人の間。
…あ、まるで、あの時みたいだ。
このバスがなくなったとき、
通り過ぎたとき、
加藤はもう、
居ないかもしれない。
通り過ぎたバス、
加藤がいた時刻表の前には、
誰も、居なかった。
…嘘だろ、そんなことって。
あんまりだって、加藤。
あぁ、やばい、俺今
泣きそうだって、有る意味思った。
今日たくさん感じた
泣きそうだ、だけど今回のは、もちろん特殊な意味で。
だけど泣きそうだって、思うその直前。
「会長、遅いからっ」
背中に感じた体温と
お腹に回った小さな手。
「…かと、う……?」


