「…おいおい、亜紀ちゃんって彼氏いたのかよ?」
声を潜めたマモルの言葉。
そんなの、俺の方が聞きたい。
もともと、
誰かいるんだろう、と思ってはいた。
加藤には、大切な誰かが。
だからきっと俺は、踏み込めなくて。
ほら、ずっと思っていたことじゃないか。
加藤には、入れない壁があると。
いつも感じていたじゃないか。
「…美味しかったよ、ありがとう。」
見ていられなくって立ち上がった俺。
マモルも慌てたように動き出した。
「じゃあ、頑張れよ。」
加藤に声をかける傍ら、
自然に見たそいつは、遊園地のときよりもしっかり見た“タカシ”は。
なんというか…。
俺と、真逆だ。
自分でも、わかるほどに。
明るい髪の毛に、
ピアスもたくさんついていて。
加藤に、簡単に触れていて。
凄く簡単に、亜紀って呼んでいて。
…なんだよ、それ。
俺って、何なんだ。
「…あの、会長」
「加藤、じゃあな。」
受験生の夏。
文化祭。
恋が、確かに、散っていた。


