「…ねぇ」



「え?」



その時。


唐沢くんに声をかけられた。



「今ラッパ吹いてたの、上原?」



「…うん」



「へぇ」



今度は唐沢くんが目を逸らして
校舎に入っていってしまった。



「…ラッパじゃないよ、トランペットだよ」



1人になった昇降口で、小さくつぶやいた。



今日は一生懸命、マーチを吹くんだ。


唐沢くんに届くように。


私の音が唐沢くんに届くように。


私の想いも、このトランペットの音と一緒に
届けばいいのに。



なんて、恥ずかしいことを考えて
ぎゅっとトランペットを抱きしめた。