『篠崎先生!お先に失礼します』
わたしはその日の放課後
6時頃、早めに学校を出た。
職員用玄関で上靴から
靴に履き替えてると
後ろから名前を呼んだのは
『羽鳥!!』
工藤先生だった。
『工藤先生?なんでしょう』
『おれもあがったんだ。
送ってくよ。』
『え、でも。』
『遠慮は要らない!』
二カッて笑う先生の笑顔は
いつも真っ直ぐで
私の胸を捉える。
『お願いします。』
『今日浮かない顔してたね?』
私がシートベルトをしたのを
確認すると、先生は車を走らせた。
『え?』
『相田先生に怒られてたこと?』
先生は鋭い。
きっと今日、
社会科の主任の相田先生に
私の授業が遅れてることを
指摘されたことだろう。
『は、はい。』
『どれくらい遅れてる?』
『時間にしていえば30分くらい?』
『おいおい、大したことねえじゃん』
『んー、まあ。はい。』
『気にしない方がいいぞ。』
先生の顔をみた。
運転してて横顔だったけど。
あの時と変わらなくて、
ー気にするなー
いつもそう、安心させてくれた。
あのときを。思い出してた。
『先生?私はテキストに載ってる
ような事を生徒に伝えたいんじゃ
ないんです。私の仕事は現代社会を
教えること。でももっと知って欲しい
事が沢山あるんです。
その事のために授業をつぶしては
いけませんか?』
私は前を見つめて言った。
『結論から言えば、ダメだな。
でも、授業で要点をつかみ
きちんと説明しその上で
時間が余るのなら、
存分に教えたい事教えてやれ。』
先生の言葉は的確だ。
『ほら、ついたぞ。』
先生が私の家の前で車を停めた。
『ありがとうございました。』
『また、親御さん居ないのか?』
先生は心配そうに
私に言った。
『先生、時間ありますか?』

