しーちゃんは兎に角変わった奴だった。
彼女は世界が大嫌いでまた、そこに生きる人間と言う種族を心から忌諱しているような奴だった。
消えちゃえ、と言うのは彼女の口癖でそして、しょっちゅうその暴言を僕に向かって吐くのだった。
それでも僕は、しーちゃんが嫌いではない。嫌いにはなれないのだ。
あぁうざってぇなてめぇが消えろと思うことは無いと言えば、それは嘘になる。
僕はそれでも彼女の事が、嫌いではない、のだ。


そしてしーちゃんが世界を嫌うようにまた、世界も彼女の事を嫌っていた。
否、順序は逆かもしれない、世界に嫌われたしーちゃんが、世界を嫌ってしまったのかもしれない。
それがどちらだとしても変わらないのは、しーちゃんと世界の関係。
互いが互いを、大嫌いと言うたった三文字の単語では表せない程に大嫌いで。でも客観的に見ても主観的に見ても圧倒的に、劣勢なのはたったひとりで戦うしーちゃんで。


しーちゃんの家には両親がいない。
兄弟もいない。
残酷な事に、本当に、残酷な事にそれらは、初めからいなかったのでは無く。
失ったのだ。しーちゃんは、その時、全てを。
交通事故で兄を失い更に、彼女の両親は悲しみに耐え切れずにしーちゃんを遺して自殺を図ったのだ。

しーちゃんは泣いた。
しーちゃんのお兄さんが大好きだった5歳の僕も、泣いた。
そしてしーちゃんは、大好きな大切な全てを奪った世界に喧嘩を売った。
そんな勇気も力も持ち合わせては居ない僕は、世界を呪った。