神龍と風の舞姫

にぎやかな街にいれば、意外とその姿を隠すことができる

まぎれる、とはよく言ったものだ

特に大きな町に行けばいくほど旅人も多く、姿恰好が少々変わっていても大して目立つことはない

けれど人の多いところは嫌いだ

だからといって人を避けて行動できるわけでもない

仕方なしに街で時間を過ごすこともある

そう、今日のように


「ねえ、お兄さん」

とある比較的大きな町の一角

昼なのにどこか閑散とした店内のカウンター席に海斗の姿はあった

目立つほど隅ではなく、けれど目に付くほど中央でもない

そんな丁度いい席に海斗は腰かけて、グラスの中の液体を飲みながら人々の話に耳を傾けてた

人々の話ほどいい情報源はない

もちろん嘘と真が入り混じっているから必要で信用性の高いものだけを選ばなければならないが

国民が話題にしていることを聞けば、だいだいその国の政情はわかるものだ

と、猫なで声で横から呼ばれて、頬杖をついたまま視線だけを声のした方に動かす

視界に入ってきたのは、長いつややかな髪を横に流し、ゆったりと立つ一人の女性

お前は夜の役者だろう、と心の中でつぶやくが、決して表情は変えない