神龍と風の舞姫

ましたやこんな何もない森の中で

「…なんでこんなことになるの?」

もう形も残っていない少女の気配を抱きしめたしるふは、涙が浮かんだ瞳で後ろにたたずむ海斗を振り返る

「…最近、失踪事件が多発していることは知ってるだろう?」

静かな瞳を向けてくる海斗は、ゆっくりと言葉を紡ぐ

「たぶん、その犠牲者だ」

「どういうこと」

「…奴らの目的はできるだけ強い本性を持つものを作り出すこと。忠誠者がいなくても本性を制御できる新しい生命体をつくること」

「そんなことしたら…!」

「ああ、この世界の均衡は崩れる」

神と人と魔族によって保たれている世界の均衡

人は力はないけれど、その多さによって自分たちを守り、魔族は力はあっても忠誠者がいないとその力のすべてを発揮することはできないという鎖がある

そして神は、力を持つ代わりに人間界に手を出してくることはほとんどない

そうして成り立っている世界の均衡が崩れれば、世界は破滅する

でも、今の力や権力を求めるこの世界の情勢ならば、そういうことをやる輩が出てきてもおかしくはない

「そのためにいろいろな人を?」

「ああ、簡単に言えば人体実験だ。どういう生命体なのかを調べるところからその細胞をもとに新たな生命体をつくるところまで」

そのために年齢も性別も異なる人たちを誘拐し、実験体とした

その結果彼らの命が消えようとも彼らは気にしない