神龍と風の舞姫

「おいて行くことをあいつが是としない」

諦め交じりにつぶやく海斗が小さく笑う

その笑みには、諦めと自嘲がある

「そうか。海斗が一人で行くのなら止めるが、あの少女が共に行くのなら止めはしない」

きっとしるふの存在が、海斗のストッパーになる

「海斗ー」

どういう意味だ、と胡乱気に羊を見上げる海斗の耳に、風に乗ってしるふの声が届く

ふと振り向くと両手いっぱいに色とりどりの花を摘んだしるふがぱたぱたと駆け寄ってくるところだった

いったいどうすればこの短時間でその量の花を摘めるのか

感心、あきれ交じりに見下ろす海斗に、座る藁の下まで辿り着いたしるふが微笑みかける

「綺麗でしょー」

自慢げに見上げてくるしるふに頷いてから

「そうだ。この森のことだが、ここ数日で巨人族の国が滅んだことは世界中の知るとこになるはずだ。不届き物の手に渡る前に俺が最も信頼を置く奴に頼んでおいた。多分明日にはここに来るだろう」

再び視線を羊に移し、思い出したように海斗が言う

その隣にふわりと音もなくしるふが着地する

もちろん手にはいっぱいの花を抱えて

「俺たちは明日の朝発つ。それまでは森で世話になるよ」