神龍と風の舞姫

「どこかに誰かが逃げ延びていることを願うよ」

座っていても相当な巨体を誇る羊の横で、海斗が積み上げられた藁に座りながらつぶやく

二人の前ではせこせこと精霊や神々、動物たちが穴を掘ったり、そこに巨人族を埋めたりと働いている

「海斗」

呼ばれて見上げると羊のくすんだ瞳が海斗を捕えていた

「確かにお前は力が強い。あいつらに追われるのもわかる。だが、だからと言ってお前が率先して奴らにかかわる必要はない。お前なら時空を飛ぶくらいお手の物だろう?」

確かに海斗が彼らをつぶそうと躍起になる必要はどこにもない

世界には世界の平和を守ろうとする規模の大きな組織も存在する

その組織に任せて自分たちは違うどこか遠い世界に行くのもありなのかもしれない

「俺はそうしても良いんだが、あのお人よしが許さないだろう」

「あの舞姫か」

今は九尾と白眉、風の精霊たちを連れだって花を摘みに行っている少女を思う

「それに、今回は巨人族だっただけでいつよしなにしている国に手が及ばないとも限らない。さすがにそれは見て見ぬふりはできないさ」

さらさらと風が小さく鳴る

「あの少女、連れて行くのか」

きっとこれからもっとやるせなくて理不尽な出来事に出くわすのだろう

その度にしるふはきっと静かに涙するのだ