神龍と風の舞姫

「だが、」

でも国民はどこに行ったのだろう、と人のいない国を思いだし考えていたら、静かな廊下に海斗の声が響く

その声に顔を上げると

「前にも言った通り、あいつらの目的はより強い能力者だ。あいつらにとって巨人族はさぞかし興味をそそる存在だろうよ」

「…」

「国王が生きていたとして、果たして国民が無事とは限らない」

凛とした海斗の声が反響する

それは、たぶん最悪の事態

国は国民がいて初めて国になる

でも、海斗の言うあいつらに狙われた時点で、この国の、国民の運命は決まっているのかもしれない

彼らの目的は、より強い能力者の創造、そして忠誠者からの独立

忠誠を誓わなくても自分だけで力を操れる能力者が欲しい彼らにとって、巨人族は、遺伝子レベルで興味が尽きない存在なのだろう

「しるふ」

すっと暗い顔をしたしるふを海斗が振り返る

「この先にはあいつらがいる。ここで引き返さなければ、しるふの存在をあいつらが認識することになる」

それでもいいのか

そう問いかける海斗の声は静かだ

きっとここが最後の機会

幾度となく海斗が作ってくれた平凡へと戻る道、それを選べる最後の機会