神龍と風の舞姫

「もう3年たちますね」

王宮の開けた大きな廊下から広大な国を眺めていた信次の背後から聞きなれた声がする

横に並びながらそういったのは、信次が即位してからずっとともに戦ってきたヤブキである

ルノア・ユザよりもはるかに年を数える彼は、落ち着いた物腰と切れる頭脳で神龍国の外交や国政に一役も二役もかっている

信次が最も信頼の置く側近だ

「私たちはいつでも海斗様のお帰りをお待ちしております。しかし、海斗様が今どこで何をしておられるのかすらもわからぬこの状況では…いささか待ちくたびれてしまいますな」

ヤブキの言葉を受けて信次は、自嘲気味に笑う

3年前、捜索の手を引かせたのは信次だ

息子の性格をよく知る信次は、海斗が決して尾をつかませないこと、決して国には戻らないことを良くわかっていた

それに年々悪化する世界情勢の中、軍をまとめる位置にあるルノアやユザを国から遠ざけていては国民の中に少なからず不安が宿ると考慮した結果だ

それに異を唱える者はいなかったが、皆心の中ではあきらめられていない

それは信次も同じだった

いつ暴走するかわからない”本性”を宿したままの海斗を野放しにしたくはなかった

世界でどんなことがあるかわからない

何が引き金で”本性”が現れるかわからないのだ