その言葉はすとんと胸の奥に落ちて、そして広がっていく。脳内では幾度か反芻され、繰り返されるたびに思いは強くなっていく気がした。
でも、叶うことはない。
この雨の中。私が伊勢谷くんを思い起こす雨の中で、きっと園ちゃんは伊勢谷くんに思いを伝えて、2人は愛し合う。
なんで今日、雨なんだろう。私はこの雨のせいで伊勢谷くんを忘れられない。枕に顔を埋めたって聞こえてくる雨音が私の心音を乱してやまない。顔を上げれば飛び込んでくる雨が、いま我が家にある伊勢谷くんの長傘が、私を逃してはくれない。
時刻はすでに10時を回っていた。園ちゃんと伊勢谷くんはそろそろ会っている頃だろうか。
「辛いなぁ」
ぽつりとこぼしただけの言葉は、私にこびりついて離れてくれない。そう、ただ辛かった。だけど、泣くことなんてできなかった。だってこれはすべて、自分で選んだ道だから。

