あまごい


 「なんで、なんだろう」

 自分の気持ちをわからないだなんて、思い込んで。きっと本当はわかっているんだ。伊勢谷くんを思う私の気持ち。彼の笑顔を思い浮かべるだけで、彼と過ごした時間を思い浮かべるだけで温かい気持ちになる、その正体に。

 でも、認めたくはなかった。いや、認められなかった。

 だって、……だって。

 認めてしまったら、足元がすべて崩れる気がして。もう元には戻れない気がして。私はただただ、怖かった。

 「私、伊勢谷くんのこと、」

 言葉が上手く出てこなかった。いくら頭でなんとなくとは言え、理解していようとも、口に出してしまったらもう、戻れない。認めるしかない。だけど私は、

 「好き、……なんだ」

 最後の悪あがきとでも言わんばかりに、そう呟いた。